ROCK READING「幸福王子」

 

ROCK READING「幸福王子」の10/24の17:00公演、10/27の14:00公演を観劇しました。

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自分なりに感じたこと、考えたことを書いた感想文です。

 

 

 

※ネタバレを含みます※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆あらすじ

オスカー・ワイルド「幸福な王子(The Happy Prince)」が原作。

 

幸福な王子(本髙克樹)は生前、宮殿から1歩も出ず、欲しいものは与えられ、何不自由ない暮らしをしていた。王子が幸福であることがその町の幸福であるとされていた。死後、町のシンボルとして、像(目はサファイア、剣にはルビー、身体は金箔、心臓は鉛)となり飾られることとなった。像になった王子は町全体を見渡せるようになったことで、生前に知らなかった町の実情を知ることとなる。自分が恵まれた環境にいたこと、そのしわ寄せでたくさんの不自由な想いをしている人がいること。争いが常に絶えないこと。その悲惨な状況を500年もの間見続けてきた。

一方、ツバメ(今野大輝)は湖のほとりの薔薇に恋をして南へ渡る群れからはぐれていた。恋をした薔薇に愛想を尽かせてそろそろ南へ向かおうとする途中、寝床として幸福な王子の像の足元を選ぶ。

ツバメは眠りにつこうとしたときに水滴が落ちてくるので、上を見ると涙を流している王子に気付く。 そこからお互いの話をして仲を深めていく。

王子は南へ渡ろうとするツバメを引き留め、自分の足になってほしいとお願いをする。ツバメは「1日延びるくらい」と渋々引き受ける。お願いは自分から見える位置にいる貧しい想いをしている人に宝石を届けるということだった。はじめは剣のルビー。一日延長して右目のサファイア。さらに延長して左目のサファイア

宝石を届けたことにより視覚を失った王子に、ツバメは寄り添うこと(南へ行くのをやめること)を決め、王子の目となり、ツバメが見たことを伝えるようになる。王子は町の貧しい人の様子を見てくること、見つけた貧しい人たちに身体の金箔を配るように依頼する。ツバメが最後の金箔を配り終える頃には雪が降り積もる冬になっていた。

冬を越せない、自分のいのちの終わりが近いことを悟ったツバメは、王子にキスをし、愛を伝え、そのまま死を迎える。それを悟った王子の鉛の心臓はその瞬間に真っ二つに割れてしまった。

宝石や金箔がなくなった王子の像は取り壊され、溶解炉で溶かされた。溶解炉で溶けなかった鉛の心臓はツバメの死骸ともにゴミ捨て場に置いて行かれた。

その頃、神様は天使に「この町で最も尊いものを2つ」持ってくるように遣いを出し、天使は王子の鉛の心臓とツバメの死骸を持っていく。それを見た神様は「ツバメはこの庭を歌いながら飛び回り、王子はわたしの僕として幸福に過ごすだろう」と高らかに笑う。

それを知った王子は悔しがりながら涙を流し、「ばかかお前は!」と怒りをぶつける。

 

◆演出の感想

 「ROCK READING」と銘打たれたこの公演。

派手な装飾に身を包んだ演者がとても華やかでよかった。

朗読劇だけど音楽がかなりの割合を占めていて、ミュージカル的な要素もあったのでかなり抑揚があって飽きづらいつくりになっているなあと思った。

バンドが入っていたのでその迫力もあったし、効果音的なものも多くて楽しかった。

曲調もわりと明るめのロックソングから、アコースティックなミドルテンポの曲、ロックバラードから、民謡みたいなものまでバラエティに富んでて面白かった~。

歌も克樹くんとこんぴちゃんの歌が聴けるのはもちろん、バックバンドのコーラスがソウルフルで華やかだったな~

朗読劇なので基本的には座って本を読んでいたのでうつむきがちで表情が見えなかったりしたけどまあ朗読劇だしな~という感じ

克樹くんとこんぴ以外の演者の方たちがひとりで何役もやっていたりユニゾンしたりエコーみたいになってたりして声だけでの演出だけど幅が広いな~と思った

 

◆演者の感想

・本髙克樹くん

 王子の役どころは500年自分が何もできないもどかしさを持ち続けていただけあって、短気で怒りっぽいキャラクター。普段の克樹くんからはなかなか聞くことができないドスの効いた低い声で終始威圧感を出していたのが印象的だったな~

「王子」という一人の役の中で、声を荒げて怒りをあらわにしたり、ツバメと仲良くなって小競り合いをするときはちょっとマイルドになったり、会話の流れで「へへっ」と笑う声が優しかったり、ツバメが死んだ後は悲しみがこもっていたり、声だけでいろんな王子が感じられたのがすごいな~と思った

物語の後半ではひとりで3役くらいをこなすシーンがあって、そこの切り替えの速さと切り替えの幅がすごくて、思わず息をのみました。

歌うシーンはポップな明るい曲は動きが「♪」って感じできゅるきゅるでめちゃかわいかった~民謡みたいな曲は手と足で拍子を取って音楽に乗ってるのもかわいかった~~

ソロ曲はロックバラードでしっかり歌い上げる曲。克樹くんの歌ってあんまりちゃんと聴いたことないけど、曲によって全然雰囲気の違う歌い方をするイメージがあって、今回の曲も全然聴いたことない克樹くんの歌だったな~ 多分、王子として歌っている部分はあると思うけど、しっかり腰を据えて歌ってて力強くてかっこよかったな~~

 

・今野大輝くん

ツバメはプライドが高くて(この設定一瞬しか出てこない)、純粋無垢な役。めちゃくちゃかわいい。いつものこんぴちゃんよりワントーン高くて、幼児向けアニメかな?みたいな喋り方だった。第一声が「君を好きになってもいいですか?」かわいすぎます。

でもビジュアルはバチバチで顔はオラオラしてるからギャップがすごい。なんで?(シンプルな疑問)

ゆっくりはっきり喋るから聞きやすくてよかった~!

歌うシーンはオラつきながら踊っててかわいかった~(結局かわいい)

ソロ曲はアコースティック調のやさしい曲で「ねむくなる~」って歌う曲。こんぴちゃんのやさしいまっすぐな歌声に合っててよかったな~~

 

◆ストーリーの感想

ツバメについて

ツバメはツバメ(=人間でないモノ)という視点から、王子を含めた人間の"おかしさ"を客観的に描く存在だったのかなと思う

「人間っていうのはお金に換算しないとモノの価値が分からないのか?」

「何で同じ人間で勝つものと負けるものが出てくるんだ?」

「みんなで平等にすることはできないのか?」

この部分って原作にはないところで、現代の人間にとっては当たり前となっているようなことを問いとして投げかけることで"現代の"幸福とは?って考える流れが作られてるなあと思った

ツバメは考えごとをすると眠くなるって描写があった上で、ツバメが眠くなるって話をしていたのは2回あって、そこが結構肝なんじゃないかなあと思ったり。

1回目は王子の遣いで最初にルビーをお針子に届けたあと、王子に「良いことをしたな」と言われ「良いことってなんだろう?」と考えるところ。2回目は王子がゼロサム理論の話をした後で「誰かの成功は誰かの失敗」と何度も何度も繰り返したあとで、「ほんとにそうかなあ?」と言うところ。

わたしはこの物語はどちらかというとツバメの自己犠牲の物語だと思っていて、言ってしまえばツバメには何にもメリットのないことをやっていった結果、自分のいのちを落としたわけで。だからわたしにはツバメがそこまでできるほどのモチベーションって何だったんだろう?って思ってしまったんだよね。

それが王子のいう「良いこと」をしたいという気持ちなのか、それとも王子に芽生えた愛の気持ちなのか、、

ツバメのシーンでいちばん印象に残ってるのは王子の最後の目のサファイアを届けたあとで、ツバメが怒るところ。

「王子は目を失ったっていうのに、あの少女はサファイアの価値を分かっていなかった。ほんとにそれでいいのか?」

これって王子以上に王子のことを大切に想っているんだなあって。人が傷つけられて自分事のように怒れるって相当のことだと思うから。それと同時にツバメが考える王子自身が「幸福」だと思うであろうことと、実際に王子自身が「幸福」だと思っていることにズレがあるんだろうなあってことを思ったかな

 

王子について

王子の行動には「500年台座の上に固定されていた」っていうところがかなり大きく影響してるな~と思った

ツバメが人間に対して疑問を持つところは、「そういう世界であったらいいな」と理想にするところで、王子自身も世直ししたいと思っていたところで、だけど500年もの間黙って見ているうちに、それが成し得ないことを痛いくらい感じてたんじゃないかな

だからこそ「俺は俺が正しいと思うことをする」っていう原理を自らに言い聞かせて、それに縋るしかなかったんじゃないかなと思う

この町の苦しんでいる人すべてを救えないと分かった上で、せめて自分の目につく人くらいには幸福(=金銭的余裕を持たせること)にさせたかった

一方で主語が「俺が」なのも、自分が行動した「結果はコントロールできない」のもすごく現実的で、500年生きてきて感じた自分の無力さへの「諦め」なのかなとも思う

 

王子のシーンで印象的だったのは、王子が「バカかお前らは」って吐き捨てるシーン。

それが2回あって、1回目は"銅像"として、いっこうに平和にならない愚かな人間に向けて、2回目は"死を迎えた身"として、主観的で自己中心的な「幸福」を押し付ける神様に対して。でも1回目は人間だった頃の自分に向けてだし、2回目は銅像だった頃の自分に向けてだったのかなあ

 

最初見たときはわたしの中での王子は早く楽になりたいんだろうなって印象が強くて、両目のサファイアを失って物が見えなくなるときもそんなに抵抗がなかったのもそういうことだろうと思ってたんだけど、ソロ曲には「折れない心」とか「消えない気持ち」とかそういう歌詞があって、前世で「知らなかったこと」へ対しての戒めとか、自分のために犠牲になった人への償いとかの気持ちがあったのかなとも思ったりした

 

王子とツバメ

劇中で、王子とツバメを対比するものとしてうまく使っているなあと思いました

「人間」と「人間じゃないもの」

「500年生きている王子」と「平均寿命が1年半のツバメ」

「遠くまで見渡せる王子」と「近くのものしか見えないツバメ」

「両足が台座に固定されている王子」と「どこへでも行けるツバメ」

「自分があって地球や宇宙があるという王子」と「地球や宇宙があって自分があるというツバメ」

「すべての人が平等は起こりえないという王子」と「ほんとにそうかなあというツバメ」

こういう対比があるから、それぞれ「幸福」の形が違うことが強調されていたんじゃないかなあ

 

全体を通して

パンフレットや公式サイトやもろもろのメディアのコンカツの発言から、「幸福って何?」っていうテーマを打ち出してる気がして。

でもわたしには「幸福」が何かっていうよりは、「幸福」という尺度を使った価値観の違いを描いているように思えたかな

ツバメにとっては王子の足となって「良いこと」をしたことよりも、王子と居られることに幸福を感じてたような気がする

王子は、、何かに幸福を感じることができてたかな?目の前で苦しむ人を助けることができて幸福を感じたかな?ツバメと居られたことは幸福だったかな?

 

まだまだ分からないことももっと考えたいこともあるけど、わたしの幸福王子はいったんここまで。

 

この舞台を見られてよかったなあ。